大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)514号 判決 1960年7月14日
事実
控訴人の主張。控訴人は、被控訴人中島に対し、昭和三三年一月一三日、弁済期到来の既存貸金債権金一六四、〇〇〇円に更に金三六、〇〇〇円を追貸して新たに元金二〇〇、〇〇〇円の貸金とした。被控訴人中川及び同宮川は同日控訴人に対し被控訴人中島の右債務について連帯保証をした。
被控訴人中川及び同宮川の主張。被控訴人中島の依頼により金二〇〇、〇〇〇円の借用証書に連帯保証人として署名捺印したことは認める。仮りに、被控訴人中島と控訴人との間に控訴人の主張するような準消費貸借が成立したとしても、被控訴人中川及び同宮川は借用証書記載のとおり控訴人から被控訴人中島に現実に金二〇〇、〇〇〇円の交付があるものと信じ、夫々保証債務を負担した次第で、被控訴人中島の控訴人に対する既存債務の存在は知らず況んや既存債務を保証する意思など毛頭ないから、保証の重要な部分に錯誤がある。
理由
証拠によれば、
被控訴人中島は、昭和三二年一二月末頃被控訴人中川宅を訪れ、金一六四、〇〇〇円の控訴人に対する旧債のあることを秘し、自己の営業更生資金として控訴人から金二〇〇、〇〇〇円を借り入れるにつき連帯保証人となつてくれるよう依頼し、被控訴人中川はこれを承諾して本件借用証(甲第一号証)に署名捺印したこと、右借用証の作成日付は当時空白であつたものを後記控訴人が被控訴人中島に金三六、〇〇〇円を交付した昭和三三年一月一三日に、控訴人においてその日を補充したものであり、その表示するところは、本件控訴人主張の如き準消費貸借契約でなく後記のような約定金二〇〇、〇〇〇円の通常消費貸借契約並びにその連帯保証契約の内容であること。
被控訴人宮川は昭和三三年一月九日頃被控訴人中島から前記中川の保証ずみの借用証を示され連帯保証を依頼されたのでこれに署名捺印したこと、なお被控訴人中島は被控訴人宮川に対しても旧債のあることを秘していたのみならず、借入金の内から五〇、〇〇〇円を融通する旨申し向けておつたので、同被控訴人も現実に金二〇〇、〇〇〇円の消費貸借がなされるものと信じておつたこと。
被控訴人中島は同月一三日控訴人方において控訴人から前述の旧債に加えて金三六、〇〇〇円の貸与を受けるとともに、控訴人主張の如き同被控訴人の控訴人に対する叙上合計金二〇〇、〇〇〇円の債務を一つの二〇〇、〇〇〇円の消費貸借の目的に更め、利息年一割八分、弁済方法同年二月以降同三四年九月までの間毎月末日限り元金一〇、〇〇〇円及び当月分の利息を持参支払うこと、もし、利息の支払を一回でも遅滞したときは期限の利益を失う旨の準消費貸借契約を結び、前記借用証書を控訴人に交付し、従前担保として差入れていた物品、保険金払込証書等の返却を受けたこと、
控訴人は、被控訴人中島の、保証人両名において右準消費貸借契約の内容を了解の上本件保証書に署名捺印したものであるとの言を信じ右取引をなしたものであること。
を認めることができる。
右認定の事実によれば、被控訴人宮川、中川の両名は控訴人に対し被控訴人中島を通じて(使者として)甲第一号証をもつて、同借用証により同被控訴人の負担する金二〇〇、〇〇〇円の消費貸借上の債務につき連帯保証をする旨の意思表示をしたものというべく、右証書への署名捺印の際の被控訴人中島と両名との話合の如きは控訴人の関与しないところであるからもとより右保証の条件とは認められず単に縁由動機に過ぎないと見るべく、その保証の目的たる主債務が新に債務額相当の金員の授受により成立するものであるか、目的債務額の一部が既存債務を差引かれ残余についてのみ現金の授受を行われ一体として準消費貸借と見られる本件のような債務であるかによつてその効力に影響ありとは思われない(大正七年五月六日大審院判決参照)から、控訴人と被控訴人中島間に有効に前記二〇〇、〇〇〇円の準消費貸借が成立した以上被控訴人中川宮川両名の連帯保証もまたその効力を妨げられるところはない。
よつて被控訴人等は控訴人に対し連帯して本件準消費貸借上の債務金二〇〇、〇〇〇円及びこれに対するその成立の日たる昭和三三年一月一三日から叙上弁済期までの利息その後の同割合による遅延損害金を支払う義務があるから、控訴人の本訴請求はすべて正当として認容すべく、これと異なる原判決を取消す。